限界ギリギリのサラリーマンのセミリタイアを目指す海外経済・投資・雑記です。

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【アメリカの今】苦境の日本産ホタテはアメリカで売れるのか?

データから見る日本産ホタテ

 このブログは雑記ブログですが、アメリカ経済・アメリカ社会の今を知ることによって今後の投資活動や資産形成に役立てないかと思いながら、記事を書いています。

 2023年8月24日に、東京電力福島第1原子力発電所のALPS処理水の海洋放出を開始。そのすぐ翌日に、中国政府が日本産水産品の全面輸入禁止を発表しました。政治的思惑があったとも言われていますが、ここではそこには触れず、話題となったホタテの輸出と今度についてまとめたいと思います。
 日本から輸出される農林水産物・食品は、2022年に1兆4,140億円のうち3,873億円(27.4%)になり、2023年は1兆4,547億円のうち3,901億円(26.8%)になります。農林水産物・食品輸出のうち、約4分の1が水産物です。そして、ホタテですが、票の通り、その農林水産物・食品の中で1位の売り上げでした。およそ6.4%で、売り上げは911億円となります。
 中国国内でのホタテの需要があるだけでなく、主に米国に加工して中国から輸出するための原材料として日本のホタテの需要が旺盛でした。日本から中国への冷凍原貝ホタテの輸出量は10万402トンになりますが、そのうち4割の約4万トンが米国へ再輸出されています。ちなみに、アメリカでは「日本産ホタテ(Japanese Scallop)」はブランドとなっています。
 少し複雑な話なのですが、通常、中国に輸出して中国で加工されて米国に行くので、「中国産」となるところです。日本のホタテは数年かけて海に稚貝をばらまいてじっくり育てるので貝柱が筋肉質です。ここに加水処理をして大玉にして、再冷凍して、アメリカに輸出されるわけですが、米国の税関当局の見解として「「原貝から貝柱を取り出して加水加工の後に再冷凍をするという加工処理では、原産国を変更するに値する実質的変更(Substantial transformation)とはみなされない」として、日本産ホタテとして中国から輸出されます。アメリカでは中国産ホタテは25%の関税がかかりますが、日本産だと0%です。安くて美味しい日本産ホタテを届けられるので、ホタテに関しては日米中がそれぞれウィンウィンの関係だったわけです。それが崩れました。

日本からの直接輸出は可能か?

では、米国に直接輸出できれば問題は解決するのかと言うと、そうはいきません。
1つ目は、米国市場でニーズのある加水ホタテ(Wet Scallop)は、食品衛生法により日本国内の流通が認められていません。そのため日本では、ホタテをSTPPに浸す膨潤化加工のノウハウを持ち合わせる企業の数が非常に少ないのです。対照的に中国企業の中には、米国マサチューセッツ州周辺のホタテ加工企業から加水加工ノウハウを得ているところもあります。
2つ目は、ホタテ水揚げ地の深刻な労働力不足です。例えば、海底でほぼ自然と同じ条件のもとで2~4年間かけて自力で成長したものを取る地撒(ま)き式と呼ばれる手法で漁獲されるホタテは、貝柱が筋肉質のため、STPPの加水率が高く、米国で人気があります。しかし、その全てがオホーツク海根室海峡地区で水揚げされるのですが、この地区では少子高齢化が進んでいます。その結果、水揚げ時期の季節労働者を加えても、殻むきするのに十分な熟練作業員を確保することが非常に難しくなっています。
3つ目は、米国向け輸出にはFDA米食品医薬品局)食品施設登録が必要なことです。そのためのHACCP認定取得のハードルが高いのです。HACCP認定を取得するためには工場設備への投資や衛生管理システムの導入が必要になり、小規模水産企業にとっては厳しい条件になります。
4つ目は、労働力不足対策として、ホタテの殻を自動でむく機械(自動脱殻機)の導入も困難です。初期費用が高く、減価償却負担もあります。

アメリカで売るために

 まず、候補に挙がったのはベトナムで加工して輸出する方法です。人件費も安く、水産加工も盛んなベトナムは代替地にぴったりだと言われ、国の機関も検討していました。しかし、この案は挫折します。ベトナムは日本よりも中国の影響が非常に強く、水産加工業界も中国系企業が多いため、結局、場所は変わってもいわゆる“チャイナリスク”の存在は避けられず、投資を開始しても、どこかで行き詰まる可能が否定でないからです。
 そこで、新たな候補として挙がっているのがメキシコです。中国から米国に輸出された加水ホタテは一部のレストランや高級スーパーなどでは取り扱われておらず、カナダ産などの無加工ホタテが使われている場合があります。そこで、冷凍回数を北海道での1回限りにして生食で消費可能な冷蔵貝柱の開発を目指す方法が検討されています。メキシコで製造するホタテ貝柱を、うまみを残し生食可能なドライ・スキャロップ(Dry Scallop)にして高付加価値をつけて新鮮な状態で隣国のアメリカに輸出する方法です。
 メキシコは水産資源も豊富で、カキやアワビ、ムール貝といった貝類も豊富で加工技術もあります。そこに打開を見出すことが検討されています。メキシコはアメリカに食料を年間8兆円以上輸出しています。そのうち水産物は500億円程度でありますが、着実に雨歌人の需要を満たしています。また、メキシコは日本からの水産物への関税を削減中で、2027年には0%になる予定です。
 アメリカに隣接するメキシコのバハカリフォルニア州では、カキやムール貝、アワビ、ミル貝、ハマグリ、サザエといった貝類の天然漁業や養殖業が盛んで、現在、そこに、日本のホタテを送り、加工の実験を行っています。メキシコの複数メーカーで加工の実験をしたところ、各社の作業員は難なく作業が行えました。また、「冷凍ホタテの貝は楽に開き、中身を取り出せるので、カキほどの労力を要さない」といった意見も出たそうです。これが成功すれば解凍して24時間以内にロサンゼルスなどの消費地に送ることが出来ます。今後に期待したいところです。いつかは、日本産ホタテがアメリカで大きな売り上げを作って欲しいと思いました。ただ、課題もあります。アメリカで流通するホタテの9割は依然として加水ホタテであり、加水加工技術の習得や全米に流通網を築くための、施設の設置なども並行して進める必要があります。こちらの動きも加速してもらいたいと思います。

私の考え

 最後になりますが、私などはこの問題を見ていくと、小規模、零細企業の一部が安売り競争ばかりを行い、技術革新が起きず、また、国の様々な中小小規模産業の保護のもとで、経営統合などの合理化も無く、30年にわたって経済が縮小している日本社会と重なって見えなくもないのです。小規模事業がすべて悪いわけでもなく、雇用を守る役割があるのも承知していますが、やはり日本経済全体を見れば、新陳代謝は避けて通れないと思います。例えばHACCPの取得問題は、今回の中国禁輸問題以前から水産業の課題となっていたものです。漁協単位や集落、市町村でまとまるのではなく、もっと大きな立場で産業の集約が必要な気も致します。もちろん一次産業の重要性は特別であり、国の保護も重要ですが、全てを政府頼りにするのも限界がありますし、先々に投資する必要もあるのではないかと思います。今後に向けた大規模な合理化、北海道の水産業界内でイノベーションが起こることを願うのですが、いかがでしょうか?

当ブログにお越しいただきありがとうございました。

引用:https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/7a41acc85494062a.html